公益財団法人中山隼雄科学技術文化財団 公益財団法人中山隼雄科学技術文化財団

特集

1992年-2012年 10年間の総括

有澤 誠

慶應義塾大学
名誉教授 有澤 誠

調査研究

 当財団の調査研究は、ゲーム産業の長中期にわたる展望をたてるための現状把握の視点から、年度ごとに事務局でテーマ案を出し、理事会・評議員会の議論・承認を経て、委託調査研究として実施した。縦割り型の研究分野の枠組みにとらわれず、諸分野を横断する調査研究も含めてテーマを選択してきた。

 具体的には、オンラインゲームの教育分野への利用、脳科学の知見に基づく新しいゲーム性開発、ゲームが脳に与える影響、特に認知能力への影響、幼児教育ソフトの評価、といったテーマで、それぞれを数年度ずつ継続した。各分野を先導する研究者たちのグループに委託するよう心がけた。

 年度ごとの成果報告会では、一般研究助成よりも多くの時間を割き、また詳しい資料を用意して報告していただくことが通例だった。これまでにいくつもの興味深い成果が得られており、その時に即応してゲームや遊びの研究にインパクトを与えてきた。

 2011年に公益財団法人に移行したため、2012年度分からは委託方式でなく公募の形をとることになった。そのため、新たに企画委員会を立ち上げて、そこで検討したテーマについて広く応募を募ることになった。初年度の企画委員会は財団の評議員・理事の中から委員を委嘱しており、何人かの外部の専門家を招聘してレクチャーを受けることで、テーマを絞り込む方法をとった。新しい方式になって最初の調査研究の公募が始まっており、どのような研究者グループからどのような応募があるか、そして採択された中からどのような新しい成果が出るか、数年後が楽しみである。

 さらに、企画委員会の中では中長期的な方向付けについての議論も始まっている。ここ2、3年の様子を見ながら、公益財団法人としての役割を果たすためのベストなやりかたを模索していくことになると思われる。技術的動向(シーズ)調査と、社会的要請(ニーズ)調査のバランスをとりながら、ゲームと遊びの研究を先導していくことが当財団の目標のひとつである。

 調査研究と助成研究は、従来から当財団の活動の二本の柱の位置を占めてきた。新しい方式の調査研究になった後も、これまでと同様に、意義ある活動として社会に貢献していくことを期待している。今後とも当財団の研究助成活動が、ゲームと遊びの分野の研究に役立っていくことを期待している。

助成研究

 当財団では、人間の遊びに関する研究を助成してきた。財団設立当初は、広く人と遊びに関する研究全般を対象とした助成を行っており、応募があったさまざまな分野の興味深い研究を支援してきた。中でも、幼児から児童の教育に遊びを取り入れることや、高齢者の医療補助といった側面まで含めた福祉と遊びの接点に位置づけられる研究まで、助成対象になったものにはいい成果を収めたものが多かったと思う。また、応募者が独自に試作した遊びに使用するオリジナルの機器類にも、ユニークなものがいくつかあったことを記憶している。そうした成果がどのくらいゲーム産業に定着しているかは、はっきりした統計記録がないため、できれば一度調査してみたいものだと考えている。

 10周年以降は、特にゲームの研究に重点を移すいっぽうで、従来と同様の人間の遊びについても余地を残す、二本立てにした。ネット文化の成熟に伴って、ゲームも単体のゲーム機からネットを利用したものに移行しつつある時期になり、課題募集の際の重点領域にもそうした動向を反映させてきた。諸外国に比べると日本ではややネット上のオンラインゲームの普及が遅い気もしており、課題応募状況を見てもそのことが見てとれる。しかしそれは時間の問題であろうと筆者は楽観している。遊び全般に関する応募については、質も量も以前と変わらない水準を維持しており、遊びの研究者たちが当財団に寄せている期待と信頼を実感している。

 2011年度の応募状況を、縦軸に研究分野をとり、横軸に研究手法をとったマトリックスに整理した資料を事務局が作成した。約半数の升目に応募があり、広範囲に多種類の研究応募があったことが分かる。財団が期待したオンラインゲームに直接関わる研究の数はそれほど多くはなかったが、さまざまな分野とさまざまな手法の組合せがあったことは、将来を期待できる。

 ここ数年間は、鉄道会社の標語のように、皆が詰め合ってもう一人座席に座ってもらうという選考をした。希望助成金額を少しずつ削って採択件数を増やすという意味で、却下するには惜しい内容の申請が多いためである。その結果、最近は成果発表会での発表件数が多くなっている。それらが一日の午後に収まるように、ポスターセッションを設ける工夫もしている。ポスターセッションでは、研究者と自由にディスカッションできる時間が増えることから、多くの発表会参加者たちから好評を得ている。口頭発表も含めて、幸いに毎回充実した研究成果を公開する機会になっている。せっかくの成果発表会にはもっと多くの若い人たちに参加してもらって、いい刺激を受けてほしいことが理事・評議員たちの願いである。今後とも当財団の研究助成活動が、ゲームと遊びの分野の研究に役立っていくことを期待している。

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